古事記は、日本書紀と並び日本最古の歴史書です。
編纂を命じたのは第40代天武天皇で681年頃と言われています。それまで伝承として語り継がれてきた神々の物語や天皇の系譜・偉業が、後世に正しく伝わるように整理することが目的でした。
天武天皇の崩御により、一時編纂が頓挫しますが、第43代元明天皇が編纂の再開を命じ、712年に完成します。
上・中・下の3巻になっており、上巻で天地創造から天孫降臨。中巻で初代神武天皇から第15代応神天皇まで。下巻で第16代仁徳天皇から第33代推古天皇まで記されています。
この記事では上巻の天地創造から天孫降臨までまとめましたので、ご一読頂ければ幸いです。
イザナキとイザナミ
天地と神々の誕生
天と地は一つのものでした。
それが分かれて二つになった時、高天の原(神々が住む天の世界)に最初に姿を表したのは、天之御中主の神でした。その後、二柱(神を数えるときは「柱」という)が現れ、姿を隠しました。
この三柱を造化三神とも呼びます。
次にさらに二柱の神が現れ、姿を隠しました。この二柱と造化三神を合わせた五柱を別天の神と呼びます。
その後にさらに二柱の神が現れ、姿を隠しました。
これまで現れた神は男女一体の存在でしたが、次に男女の五組の神が現れました。
別天の神の後に現れた二柱の神と男女五組の神を神代七代と呼ばれます。
この五組の神で最後に現れたのが、イザナギノカミ(伊邪那岐神)とイザナミノカミ(伊邪那美神)でした。
国産み
高天の原に住まう神々は最後に現れたイザナキノカミとイザナミノカミに
そなたたちの力で漂う大地を固め、形を整えよ。
と命じられ、委任の印として天の沼矛を授けられました。
イザナキとイザナミは高天の原と葦原の中つ国(人が住む地上の世界)を繋ぐ天の浮き橋に立ち、天の沼矛を海にさし、「コオロコオロ」とかき混ぜ沼矛を引き上げると、海水がしたり落ち、塩が固まり島になりました。これを淤能碁呂嶋(オノゴロ島)といいます。
イザナキとイザナミはこのオノゴロ島に降り立ち、まずは神聖な柱を立て、広い御殿を作り上げました。
その後、イザナキはイザナミに訪ねました。
そなたの身体はどのように出来ているのですか。
私の身体は十分に成長しているのですが、1か所だけ不十分なところがあります。
私の身体も十分に成長しているのですが、1か所だけよけいなところがあります。
そのよけいなところで、あなたの不十分なところをふさげば、国土を生み出すことができるのではないでしょうか。
イザナミの同意を得ると、まず出会いから始めようと、お互いに柱を逆方向にまわり、出会ったところでイザナミから声をかけました。
なんて素敵な殿方なのでしょう。
あなたこそ、なんて素敵な乙女なのでしょう。
そのようにして2度繰り返しましたが、良い子供は生まれませんでした。
イザナキとイザナミは一度高天原に昇り、他の神々と相談をしたところ、女性神から声をかけたことが良くなかったとわかりました。
イザナキとイザナミは再度オノゴロ島に降り下り、柱を周り
なんて素敵な乙女なのだろう。
あなたこそ、なんと素晴らしい殿方なのでしょう。
と今度はイザナキから声を掛けたところ、最初の子供が生まれました。
最初の生まれたのは淡道之穂狭別嶋といい、現在の淡路島となりました。
その後、四国・九州・本州・佐渡ヶ島など次々と国を生みだしていきました。
神産みとイザナミの死
国産みを終えたイザナキとイザナミは次に神々を生み出しました。
はじめに大事忍男の神という神産みを象徴する神を生み出しました。
その後、海に関わる神、風や水、山や野に関わる神などを次々と生み出していきましたが、ある時、悲劇が起こりました。
火の神(火之夜芸速男の神)を生み出した時、イザナミはその火で大火傷を負い、それがもとで命を落としてしまいました。
愛しい妻を、たった一柱の神のために失うとは・・・
とイザナキは悲しみと怒りのために、生まれたばかりの火の神を斬り殺してしまいました。
そしてイザナミの亡骸は出雲の国と伯耆の国の境にある比婆の山(広島県北部、島根県との県境にほど近い位置)に葬られました。
イザナミを求め、黄泉の国へ
イザナキは愛しいイザナミに会いたい気持ちを抑えきれず、黄泉の国へ向かいました。
イザナキが黄泉の国の御殿の外からイザナミに
愛しい妻よ。私達の国造りはまだ途中です。
どうか戻ってきてくれないか。
と語りかけました。イザナミは
もう少し早く来て頂ければよかったのですが・・・
私はもう黄泉の国の食べ物を食べてしまったので戻れません。
ですが、愛しい貴方が訪ねてくださったのですから、できれば一緒に帰りたい。
黄泉の国の神に相談してまいります。
その間、決して私を見ないでください。
イザナキは待ちましたが、イザナミは一向に姿を現しません。
待ちきれなくなったイザナキは御殿の中に入っていきました。
そこでイザナキが見たのは、変わり果てたイザナミの姿でした。
体には無数の蛆虫が這い回り、頭や腹などから大雷など八種の雷神が生まれ出ていました。
恐ろしくなったイザナキは慌てて逃げ出しました。
見たな!
それに気づいたイザナミは激怒し、追手(予母都志許売)に命じてイザナキを追わせました。
イザナキは逃げながら、追手に山ぶどうやたけのこを投げつけたところ、一部の追手はそれらにむしゃぶりついて食べていましたが、それでも八種の雷神などが追ってきます。
黄泉つひら坂まで逃げた時、一本の桃の木を見つけ、桃の実を追手に投げつけました。
するとどうしたことが、追手は逃げ帰りました。
イザナキが桃の木に感謝をしていると、イザナミ本人が追いかけてきました。
イザナキは黄泉の国で出入り口を大きな岩で塞ぎ、追ってきたイザナキと対峙しました。
愛しい夫よ。
私に恥をかかせましたね。
このように酷い仕打ちをするのなら、私はあなたの国の住人を1日1,000人絞め殺します。
愛しい妻よ。
あなたがそうするのなら、わたしは毎日1,500人を生み出していきます。
このように、私達の住む現世(葦原の中つ国)では、毎日1,000人が死に、1,500人が生まれるようになりました。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の誕生と天の岩屋戸隠れ
三貴子の誕生
やっとのことで現世に戻ってきたイザナギは黄泉の国で染み付いた穢れを取り除くために川で体を洗い禊を始めました。
体を洗っていると、イザナギの持ち物や衣服から次々と神が生まれていきました。
そのうち、イザナギが顔を洗い始めた時、左目から天照大御神(あまてらすおおみかみ)、右目から月読の命(つくよみのみこと)、鼻から建速須佐之男の命(たけはやすさのおのみこと)が生まれました。
私はこれまで多くの子を生んだが、最後に三柱の貴い子を得ることができた。
と喜びを現したイザナギは天照大御神に自分の首飾りを与えながら、
天照大御神(以後、アマテラス)、そなたは高天の原(天界)を治めなさい。
月読の命(以後、ツクヨミ)、そなたは夜の国を治めなさい。
建速須佐之男の命(以後、スサノオ)、そなたは海原を治めなさい。
とそれぞれの統治を任命しました。
アマテラスとツクヨミはイザナギの任命どおり、それぞれの地を治めていましたが、スサノオだけが海原に行こうともせず、あごひげが伸びて胸元に届くようになっても、泣きわめいてばかりいました。
海や川が干上がってしまう泣き様で、それが元で悪しき神々が一斉に目を覚まし、現世であらゆる災いが起こりました。
どうして海原に行かない。なぜ泣きわめいてばかりいるのだ。
と尋ねると
私は亡き母のいる黄泉の国に行きたいのです。
これを聞いたイザナギは怒り
それならば、お前はこの国(現世)に住んではいけない
と言い、スサノオを現世から追放しました。
アマテラスとスサノオの誓約(うけい)
現世を追放されたスサノオは
母のいる黄泉の国へ行こう。
その前にアマテラス姉さんを訪ね、経緯を説明しよう。
と高天の原にのぼりはじめました。
すると山や川が大きな音を立てながら激しく揺れ動きました。
これに驚いたのがアマテラスです。
我が弟が高天の原にのぼってくるのは、我が国を奪うつもりではないか。
アマテラスは武装をし、高天の原にのぼってきたスサノオと対峙しました。
そなたは、この高天の原を奪いに来たのであろう。
違います。ただ黄泉の国に行く前に挨拶に来ただけです。
そなたに邪心があるか、誓約(うけい)によって確かめましょう。
わたしはそなたの剣から神を生み出しましょう。
そなたも私の勾玉から神を生み出しなさい。
アマテラスはスサノオの剣を噛み砕き、「ふぅ」と吹き出すと、3柱の女神が生まれました。
スサノオはアマテラスの勾玉を噛み砕き、「ふぅ」と吐き出すと、5柱の男神が生まれました。
3柱の女神は、そなたの剣から生まれたので、そなたの子です。
5柱の男神は、わたしの勾玉からうまれたので、わたしの子です。
わかりました。
そして、わたしに邪心がないからわたしの剣から女神が生まれたのです。
これでわたしに邪心がないことが証明されました。
とスサノオは誓約の勝利宣言を行い、高天の原に入ることを許されました。
天の岩屋戸隠れ
高天の原での滞在を許されたスサノオは、そこでやりたい放題でした。
田んぼのあぜ道を埋めてしまったり、神殿の周りに糞尿を撒き散らしたりしました。
高天の原に住む神々から非難の声があがりましたが、アマテラスはスサノオをかばいました。
糞尿のように見えるのは、弟が酒に酔って吐いたのでしょう。
田のあぜ道を埋めたのは、そのほうが土地を有効に使えると考えたのでしょう。
そんなアマテラスの心遣いなど知る由もなく、スサノオの横暴はひどくなり、ついにアマテラスがかばうことが出来ない大事件をおこします。
アマテラスが神聖な機織りの御殿に入って、神に捧げる衣を織らせているときのことです。
スサノオが御殿の屋根に穴をあけ、尻の方から革を剥いだ馬を投げ入れたのでした。
これに驚いた機織りが、誤って尖った機織り道具にささり死んでしまいました。
機織りの死に心を痛めたアマテラスは、洞窟を塞ぐ天の石屋戸を開き、その中に籠ってしまいました。
すると、天界・現世ともに真っ暗になり、魑魅魍魎が跋扈するようするようになりました。
八百万の神々は困り果てましたが、やがて知恵の神であるオモイノカネの策が実行されました。
まず鏡を用意しました。そして岩戸屋の近くに勾玉を使い飾り付けを行いました。
そして芸能の神であるアメノウズメが踊り始めました。
あまりに激しい踊りだったので衣装がたちまち乱れ、両方が乳房があらわとなり、腰の紐も下がり、下腹部まで見えそうになりました。
踊りを見ていた八百万の神はその状況にどっと笑い声を上げました。
洞窟の中にいるアマテラスにも笑い声が聞こえました。
皆の笑い声に惹かれ、そっと天の石屋戸を開きました。
そなた様より尊い神がおいでになり、皆喜んでいるのでございます。
と言い、用意した鏡を差し出しました。
アマテラスが鏡に写った自分の顔を見ていると、洞窟からアマテラスを引っ張り出し、天の石屋戸を締め切り、そこにしめ縄をはり、アマテラスが二度と洞窟に入れないようにしました。
これにより、天界も現世にも光が蘇りました。
ですが、これで終わりません。八百万の神は相談し、このような狼藉を働いたスサノオを天界から追放することに決めました。
つづく・・・
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